「カナダには、制限がなかったから」

フランス人のマッシャー(犬ぞり師)、マリンさんが語ってくれた移住の理由。
それは、マイナス30℃の鉱山跡地を何時間も犬たちと駆けた時に体感できた。

真っ白な太陽に照らされた、銀色の世界を犬ぞりでひた走る。
地球のなかでも創世記に近い地盤が残るカナダに、
ある目的とまだ見ぬ鉱物を探し求めてやってきた私たち。
この日は、かつて銅を中心に様々な鉱物が採掘されたユーコンの鉱山跡を辿っていた。

雪のスロープを勢いよく登っていく、犬たちの絶え間ないエネルギー。
その瞳は忠誠心にあふれ、望めばどこまでも連れていってくれるのであろう。
私たちは魂の赴くまま、制限のない道をどこまでも進むことができたのだ。

犬たちに信頼を与え、自身がニュートラルになるほどに、視線は遠くに向いていく。
現われるのは、風もない無音の山の彼方より顔をだす「森羅の存在」たち。

それは多くの動物たちの肉体や魂であり、
森の木霊であり、
太古から続く大地や人々の鼓動でもある。
どこか懐かしく、極寒の中でも温かい慈愛を感じずにはいられない。

幾年も人の手に壊されることなく静かな時を過ごしているタイガ原生林。
それを守護した尊い先人たちの智慧と営み。
ダイヤモンドパウダーのように湿り気がなくさらさらと滑って消えてゆく雪の粒。

すれ違う自然が次々と霊化し、空へ昇って往く瞬間のなんと美しいこと。
涙さえ凍る雪原で、心は完全に解放されていく。

この旅で、私たちが辿りついたのは、そんなスピリットの集合体のようなエネルギーと、
素晴らしいアビリティを秘めた鉱物たち。